
左の図は現在失われてしまったチェチーリア・ガッレラーニの背景描写を再現してみたものです。レオナルドの場合、このような人物画を描く際には人物の頭の部分だけ背景を縦に四角く塗りつぶし、その両脇にアーチ状の開口部を描くというのが習慣となっています。
おそらくこの絵でも当初はこのような構図の背景が描かれていたと考えられるのですが、描写が未完成であったのか現在では完全に黒く塗りつぶされてしまい何が描かれていたのかは全く分からなくなってしまっています。
何度か調査もされたのですが結局背景に窓などは発見されておらず、かなり不思議な感じがします。
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Portrait of Cecilia GalleraniOil on walnut, 55 x 40.5cm Cracow, Muzem Narodove, Czartoryski Collection
絵はレオナルドにしては非常に丁寧に細部まで描きこまれており、この時期のレオナルドが絵画にかなり専念できていたことを証明しています。特にチェチーリアの顔以外の白テンや手の部分まで丁寧に描きこんでいる辺りがレオナルドにしては珍しいと感じます。 この絵は実在の人物の肖像画ということで理想の女性像を描いた絵画とは違い、レオナルドの写実性が問われる絵画でもあります。 この写実性といった点に関して私はレオナルドをそれほど高く評価はしていません。多くの場合、レオナルドは物を描く際に観念的な部分で描くことが多いと感じているからです。例えばこの絵なら白テンの描写です。この見事な白テンの描写はレオナルドでなければ描けないような特徴があるのですが、実際の生きた白テンがこのようなポーズを取ることは在り得ないと感じます。レオナルドはこの白テンを描く際にある種の誇張を加えて描いています。この誇張を加え自分の描きたいように描くというレオナルドの特徴が写実には向いていないと私が感じている点になります。 さらにそういった写実性だけではなく、肖像画にはモデルがどのように描いて欲しいと思っているのかを感じ取る能力も問われます。そして最終的にはそれら全てを一つの芸術作品にまとめる能力も必要となってくるので肖像画とはかなり難易度の高い仕事になります。 このように肖像画での写実性といった観点からこの絵を見ると全体的に無難にまとめられているのではないかと感じます。実際のチェチーリア本人を見ていないので断定はできませんが、それなりの写実性を持って描かれているようにも見えます。 具体的に言えば顔の細さになります。この顔全体のフォルムがレオナルドが通常描く女性像よりは顔の横幅が狭い印象があります。また、鼻筋に関しても通常よりもやや角ばった鼻筋のすっきりとした顔立ちで顎のラインも角度が急でかなりシャープな印象があります。 こういった普段レオナルドが描く女性像とは少し違った特徴を見せているあたりにレオナルドがモデルを写実的に捉えようとしていた痕跡が見られるのです。
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